たった数秒の事だったのだが、大杉漣という役者に逢い、互いにうなずき合ったことが、ずっと記憶の中にあったから、その訃報を耳にした時はショックだった。
男の役者というのは切ない職業である。昔は男芸者と呼ぶ人もいた。銀幕は女優のものが定説だった。今は男優もスターである。
たった一度の会釈だが、大人の男の出逢いというのはそれで十分だと私は思っている。
人は病気や、事故でこの世を去るのではないと私は思っている。人は寿命で、この世を去るのである。人の死は、生きているその人と二度と逢えないだけのことで、それ以上でも、以下でもない。生きている当人には逢えないが、その人は生き残った人たちの中で間違いなく生きている。